最近テレビで「やらなさそう」「しなさそう」「食べなさそう」といった言い回しをよく耳にします。これらはそれぞれ「やらなそう」「しなそう」「食べなそう」ではないか?という意見があります。いっぽうで「暑くなさそう」は「暑くなそう」とは言わないよね?という声も。さて、何が正しくて何が正しくないのか、確認してみたいと思います。
[動詞の否定形]+「そう」は、「さ」を入れないが普通
まず、冒頭の「やらなそう」のように、動詞の否定形に「そう」が付く場合は、「さ」を入れないのが従来の法則です。
- やらない + そう → ○やらなそう ×やらなさそう
- しない + そう → ○しなそう ×しなさそう
- 食べない + そう → ○食べなそう ×食べなさそう
- 行かない + そう → ○行かなそう ×行かなさそう
- 来ない + そう → ○来なそう ×来なさそう
ただ近年は「さ」を入れた表現がテレビでもたくさん使われることから、だんだんと市民権を得てきているように感じます。私個人としては間違っていると思われたくないので使いませんが。
[形容詞の否定形]+「ない」は、「さ」を入れる
これに対して「暑くない」「高くない」「怖くない」など、形容詞の否定形に「そう」が付く場合は必ず「さ」が入ります。
- 暑くない + そう → ○暑くなさそう ×暑くなそう
- 高くない + そう → ○高くなさそう ×高くなそう
- 怖くない + そう → ○怖くなさそう ×怖くなそう
- 重くない + そう → ○重くなさそう ×重くなそう
なお、この法則は形容動詞(ナ形容詞)の場合も同じです。形容動詞の否定形は「〜じゃない」「〜ではない」となります。「男」といった名詞の否定も同様です。
- きれいじゃない + そう → ○きれいじゃなさそう ×きれいじゃなそう
- 好きじゃない + そう → ○好きじゃなさそう ×好きじゃなそう
- 男じゃない + そう → ○男じゃなさそう ×男じゃなそう
では、[動詞]と[形容詞・形容動詞]では何が違うのでしょうか?
「やらない」の「ない」は助動詞、「暑くない」の「ない」は形容詞
「〜そう」の前に「さ」が入るか入らないかの違いは、「ない」という語の品詞の違いによります。
まず、「やらなそう」の「そう」とは何か? これは様態を表す助動詞「そうだ」の語幹になります。つまり「やらなそうだ」の「だ」が省略されたのが「やらなそう」というわけです。この助動詞「そうだ」について、『大辞林』には以下のようにあります。
動詞および助動詞の「れる」「られる」「せる」「させる」にはその連用形に付き、形容詞・形容動詞、および助動詞「ない」「たい」にはその語幹に付く。ただし、形容詞のうち、語幹が一字の「ない」「よい」には、「なさそうだ」「よさそうだ」のように、その語幹と「そうだ」との間に「さ」が入る。
『大辞林』
ここにも書かれているように、「ない」には助動詞の「ない」と、形容詞の「ない」があります。このうち動詞に付くのは助動詞の「ない」で、形容詞に付くのは同じ形容詞の「ない」ということです。
- (動詞)食べない ← 助動詞
- (形容詞)暑くない ← 形容詞
そして『大辞林』によると、助動詞「ない」にはその語幹に「そうだ」が付く、とあります。ここでいう語幹とは「ない」の「な」のことです。つまり「〜な+そうだ」となるわけです。
いっぽう形容詞「ない」には、語幹と「そうだ」との間に「さ」が入る、とあります。この場合も語幹は「ない」の「な」になるので、結果として「〜な+さ+そうだ」となります。
まとめ:「さ」を抜いても良さそうだったら抜いてみる
これまで文法用語を使って解説してきましたが、あなたが日本語の語感を持っているようでしたら、とりあえず「さ」を抜いてみておかしく感じないようだったら抜いてみる、というシンプルな考え方でいいと思います。
「やらなさそう」→「やらなそう(おかしくないな…)」→「やらなそう」
「暑くなさそう」→「暑くなそう(おかしいな…)」→「暑くなさそう」