【誤用】「少なからず」は「少ないながら」という意味ではない

文章の書き方

「しらべぇ」というサイトによると、「和式トイレ」じゃないと使えない人は6.4%! というアンケート結果があるそうです。これを(予想より)多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれですが、6.4%という数字は全体からすれば明らかに少数派です。

私などは根っからの洋式派なので、駆け込んだ公衆トイレで唯一空いていた個室が和式だったときには激しい怒りを感じてしまいます。「なぜ今どき和式トイレなんか設置してんだよっ!」と。

ではこの状況をトイレを設置している事業者の立場になって、「和式トイレじゃないと使えない人が少なからずいるので、和式トイレは撤廃できない」と表現することは適当でしょうか?

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少なく・あらず → 少なからず

まず「少なからず」という言葉は上に記したとおり「少なく・あらず」という語の組み合わせなので、「少なくない」という意味になります。『大辞林』には以下のようにあります。

すくなから ず【少なからず】
(副)
①程度や数量が少しではなく、かなりであるさま。大いに。程度のはなはだしさを婉曲にいう語。「──立腹の様子だ」
②しばしば。「うわさを──耳にした」

(『大辞林』三省堂)

これを先ほどの例文に当てはめると「和式トイレじゃないと使えない人がかなりいるので、和式トイレは撤廃できない」となります。

ちょっとニュアンスが違いますね。「かなり」はいません。せいぜい6.4%です。

おそらく和式トイレを設置する事業者からすれば、「和式トイレじゃないと使えない人が少ないながらも確実にいるので、和式トイレは撤廃できない」といったところが実情でしょう。

ですからこの場合、「少なからず」という言葉を使うのは適当ではありません!

ところがこのように「少なからず」を「少ないけれど」とか「少ないながら」といった意味で使う例をよく目にします。

「かなり」と「少なからず」の違いは?

上記のとおり『大辞林』によると、「少なからず」は「かなり」という意味になりますが、では両者に違いはあるのでしょうか?

例えば100人のうち80人以上が該当すればなんとなく「かなり」と言えそうですが、「少なからず」の場合は何人以上が該当するイメージでしょうか?

注目すべきは「少なく・あらず」という否定の形です。ここには「少ないと思っているかもしれませんが、意外と少なくないんですよ」というニュアンスが含まれます。例えば「和式トイレしか使えない人なんて1000人に1人ぐらいだと思っているかもしれませんが、実は100人に6人もいるんですよ」という流れであれば「少なからず」という言葉がフィットしないとは言い切れません。

このように100人のうち何人該当すれば「少なからず」と言える、といった定量的な目安がないことが難しいところで、この難しさが誤用を招く一因にもなっているのでしょう。

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