主婦の友インフォス情報社という会社から発行されている『えっ? これっておかしいの!? マンガで気づく間違った日本語』(著者:篠崎 晃一)という本を購入しました。意外と気付かずに使っていた言葉があってとても勉強になりました。
薀蓄は「傾ける」が正解?
さてこの本の中で、新人アイドルの詳細なプロフィールを自慢気に披露する男性に対して主人公の女の子が上の画像のような言葉をもらします。
「うわー 薀蓄をひけらかしてる…」
まず「薀蓄」という漢字が読めないと思います。どうしてこんな難しい漢字をルビも付けずに載せているのか不思議ですが、これは「うんちく」と読みます。意味は「深く研究して身につけた知識」ということです。(『大辞林』より)
ここで、正しい使い方として「薀蓄を傾ける」という慣用句が紹介されています。どうして「傾ける」なのでしょう。
「薀」も「蓄」も「つむ、たくわえる」という意味の漢字なので、イメージとしては知識がなみなみたくわえられた容器を傾けて、中身をすべて出すといった感じでしょうか。
なるほど、語源をさかのぼれば「うんちく」に「傾ける」という動詞を付ける理由が理解できます。
では、「うんちく」という言葉には「傾ける」以外の動詞を付けてはいけないのでしょうか。付けた場合はそれらはすべて誤用となってしまうのでしょうか。例えば、「うんちくを語る」「うんちくを披露する」「うんちくを見せびらかす」「うんちくを自慢する」など。
「薀蓄(うんちく)を傾ける」は慣用句のひとつではないのか
『大辞林』で「うんちく」を調べると以下のようにあります。
うんちく【蘊蓄・薀蓄】
深く研究して身につけた知識。「──の深さを示す」
〈句項目〉
蘊蓄を傾ける(『大辞林』三省堂)
ここでは「──を傾ける」はあくまでも句(慣用句)のひとつとして取り上げ、「──の深さを示す」という使い方も例として挙げています。
例えば「酒を酌(く)み交わす」という慣用句があります。ですがこの慣用句以外にも酒は「飲む」「酌む」「浴びる」「あおる」「たしなむ」など、さまざまな動詞とともに使われます。これによりアルコールを体内に摂取するという動作に対してさまざまな感情や情景を付加することができます。簡単に言えば表現の幅が広がるということです。
今回問題となった「ひけらかす」という言葉は「見せびらかす。自慢する」という意味ですから、「ひけらかしている」人に対して多くは批判的なシーンで使われます。では、「うんちくを傾ける」という言葉にそういった否定的なニュアンスはあるでしょうか(いや、ないでしょう)。
どうでもいい無駄な知識を自慢気に語っているオタクに対して、「うわー、アイツまたうんちくを傾けてるよー」と言うよりも、「ひけらかしてるよー」と言った方が批判的な感情がうまく表現できるというものです。
私は「うんちく」も「傾ける」という慣用句だけでなく、「ひけらかす」や「たれる」「語る」「披露する」「見せびらかす」「自慢する」といった、さまざまな動詞とともに使ってもいいと思いますが、ダメなのでしょうか?