「文字通り」の使い方

今回は、私が近ごろ気になっている言葉「文字通り」を使った文章の書き方について紹介したいと思います(別に、近ごろ急に使われるようになったわけではないのでしょうが……)。

まず、「文字通り」という言葉は次のようなシーンでよく使われます。ひとつは、単語の意味を説明するとき。

電子書籍とは文字通り電子機器を使って読む書籍のことである。

もうひとつは、比喩表現を強調するとき。

寝違えて首を痛めてしまったが借金で治療もできない。文字通り首が回らない状況だ。

今回話題にしたいのは後者、比喩表現とともに使われる方です。

「文字どおり」になっていない例がたくさんある

ことわざをはじめとした比喩表現はふつう、目の前の事象をそのまま表すわけではありません。例えば「(借金で)首が回らない」という表現は、頸部や頭部が動作しないという肉体的な不調を説明する場面で使われることは稀です。「鬼に金棒」という言葉が使われていても、本当に鬼が登場するわけではありません。

これに対して上の例では、寝違えて本当に首が動かなくなった状況が、借金でやりくりできない状況を表す比喩表現にぴったり重なったので、その偶発的な面白さを強調するために「文字通り」という言葉を使っているわけです。

では、次の例を見てください。

自分勝手に振る舞っていたら周囲を敵に回してしまった。文字通り四面楚歌の状況だ。

四面楚歌というのは中国の故事のひとつです。昔、楚の国の項羽が戦地で四方から故郷の歌を聞かされて、味方が降伏してしまったと思い絶望したという話が元となっています。

これを「文字通り」と使えるのは、本当に楚の歌が四方から聞こえてきた場合のみです。ところが、こういった「文字通りになっていない」使われ方がとても多いのです。

もうひとつ。

文字通り抜き差しならないはめに陥った。

(『デジタル大辞泉』小学館)

これは、『デジタル大辞泉』に例文として挙げられていたものです。

「抜き差しならない」の表面上の意味は、刀が錆びてしまって抜くことも差すこともできないということです。また、剣の達人同士が対峙して動けなくなっている状況からきているという説もあります。「先に動いた方がやられる」というやつです。

いずれにせよ、上の例文は本当に刀が登場するか、何かが抜けなくなって非常に危ない場面でなければ「文字通り」とはなりません。そう考えると、日常生活でどういった状況がそれに当たるのか想像しづらく、辞書の例文としてはいささか不適切な感じもします。



実は英語の「literally」にも「文字通り」と似た誤用があるそうです。私はよくディスカバリー・チャンネルを視聴しているのですが、流れてくる日本語訳でこの「文字通り〜」という誤用をしばしば耳にします。これはきっと英語の「literally」を誤用のまま「文字通り」と訳しているからなのでしょう。だとしたら、この誤用は英語圏から輸入されたものなのかもしれません。

興味深いのは、当の英語圏ではこの誤用を容認する状況になりつつあり、大手の辞書でも文字通りではない「literally」の意味を追加しはじめたそうです。『Oxford Advanced Leaner’s Dictionary』にも3つ目の意味として、informal としながらも、

used to emphasize a word or phrase, even if it is not actually ture in a literal sense

と記されています。「本当に文字そのものの意味でなくても、言葉やフレーズを強調するときに使われる」といったところでしょうか。

おそらく日本語の「文字通り」も少しずつ誤用が誤用でなくなっていくのでしょう。いや、すでに大多数の日本人はこういった文章の書き方を「アリ」と認めているのかもしれません。

これは文字通り四面楚歌の状況です。

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