「ぞっとしない」は「ぞっとする」の否定語ではない!?

文章の書き方

怖いものを見たり聞いたりしたときに「ぞっとする」という表現を使うことはみなさん知っていると思います。また、怖いときだけでなく、強い衝撃を受けたときにも使われることがあり、それも含めて『大辞林』では以下のように紹介しています。

ぞっと
(副)スル
① 寒さや恐ろしさのために、全身の毛が逆立つように感じるさま。「外へ出たとたん ─ した」「思い出しても ─ する体験」

② 強い感情が身体の中を通り抜けるさまを表す語。「─ するほどの美人」「小春が貴郎(あなた)能くと末半分は消て行く片靨(かたくぼ)俊雄は ─ 可愛気立ちて/かくれんぼ 緑雨」

最後の『かくれんぼ』斎藤緑雨(さいとうりょくう)の例はちょっとわかりづらいですが、ドキッとする可愛さという意味でしょう。

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「ぞっとしない」は感心しないという意味

これに対して、「ぞっとしない」という語についても『大辞林』では別項目で説明しています。

ぞっとしない
感心しない。うれしくない。「あまり ─ 話だ」「大概は ─ 女房ばかりなので、がつかりしたやうに歩調(あゆみ)を早めて/すみだ川 荷風」

ここでひとつの例文をみてください。

A「昨日、電子レンジ開けたら1カ月前のリゾットが入っててさ…」
B「マジかよ、あまりぞっとしない話だな」
C「うそぉ! ぞっとするじゃん」
B「え?」
C「え?」

ここで B が「マジかよ、あまりぞっとしない話だな」と言っているのは、「マジかよ、1カ月も放置しておくなんてあまり良いことではないな」という意味です。

ですから、この場合の「ぞっとしない」は「ぞっとする」の否定形(怖く感じない)ではなく、まったく別の慣用句だと考えた方がいいかもしれません。あえて語源を探るのなら、「ぞっとする」の ② の意味「強い感情が身体の中を通り抜けるさま」の否定形、つまり「とくに何も感じることはない → つまらない → 感心しない」と解釈すればいいでしょう。

世論調査の半数以上が「ぞっとしない」を「恐ろしくない」と回答

平成18年度に文化庁が「国語に関する世論調査」の中で、「今の映画は、あまりぞっとしないものだった」という例文の「ぞっとしない」の意味を尋ねました。

結果は、「恐ろしくない」と回答した人が過半数の 54.1% にのぼり、本来の意味である「面白くない」を選択した人の割合 31.3% を大きく上回ったそうです。

年齢別にみると、年配の人ほど本来の意味で回答する割合が多かったようですが、それでもすべての世代で「恐ろしくない」を選んだ人が「面白くない」を選んだ人の割合を上回りました。

ちなみに、「恐ろしくない」と「面白くない」の両方と回答した人が 2.4% いたそうです。

単純に「ぞっとする(恐ろしい)」の否定形として「ぞっとしない」を用いても文法的に間違いではないはず(例えば、「ねえねえ、今の映画、怖くてぞっとした?」「ううん、あまりぞっとしなかった」という使い方も間違いではないはず)なので、案外この 2.4% の人たちが正解なのかもしれません。

いずれにしても、「ぞっとしない」は個人的にわりと好きな言い回しなので廃れてしまわないことを望みます……。

ところで、

ネットで「ぞっとする/ぞっとしない」について議論されているサイトを覗いたら、「そういう言葉は相手の教養の高さによって使ったり、使わなかったりしています。バカな人に使ってもこっちがバカだと思われますから」といったような辛辣な意見もありました。

これはこれで、ぞっとしませんね。いや、ぞっとするのかな。

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