先日、友人の職人さんが「『こだわり』って言葉、あんまり好きじゃないんだよね」と言っていました。「ぼく、あんまりこだわりがないからさっ」と冗談っぽく笑っていましたが、職人さんには職人さんなりに思うところがあるのでしょう。
私はメディア側の人間として、「こだわり」という言葉は「本物の」などと同様、あまり多用してはいけないものだと思っています。
これは、「使い古された慣用句の使用は、書くことを怠けているということ」という記事でも書いていますが、表現があまりにもありふれているため逆にすごさが伝わってこないからです。
ですが、例えばラーメン屋を特集した雑誌の記事でも、「こだわりのスープ」だとか「店主のこだわり」といった表現があちらこちらに見られます(「こだわりらーめん」というキャッチフレーズのお店もあるようですね)。
私自身も『ラーメン Walker』の取材をしていた時期がありましたのでよくわかりますが、雑誌に載るようなラーメン屋でスープや麺の味にこだわっていないお店は(タテマエとして)ないのですから、この「こだわり」という言葉にはほとんど効力はありません。
「こだわり」では特徴が伝わりにくい
そのような状況のなか、先日『ITmedia』に「『格安スマホ』から『こだわりスマホ』へ――イオンスマホが進む次のステップ」という記事が掲載されました。
1年前に端末代込みで月額2980円という価格が支持を集め、1カ月で8000台を完売したという「格安スマホ」が、ブランド、スペック、通信速度、通信容量にこだわり、新しく「こだわりスマホ」として生まれ変わるそうです。
しかしどうでしょうか。「格安」という非常にわかりやすいコンセプトだったものが、かえって特徴のわかりづらい普通の商品になってしまったと思いませんか。
「こだわる」という言葉を得意の『大辞林』で調べてみると、
こだわ・る
① 心が何かにとらわれて、自由に考えることができなくなる。気にしなくてもいいようなことを気にする。拘泥する。「金に─・る人」「済んだことについていつまでも─・るな」
② 普通は軽視されがちなことにまで好みを主張する。「ビールの銘柄に─・る」(『大辞林』三省堂)
となっています。①の方はネガティブな使い方なので今回のテーマとは違いますが、②の方でも「普通は軽視されがちなことにまで」とあります。
ラーメン屋におけるスープや麺、携帯電話におけるブランド、スペック、通信速度、通信容量が「普通は軽視されがちなこと」でしょうか。こだわって当たり前のことですよね。
ラーメン屋が「ウチは『大安吉日』にしかお店を開かないんですよ」というのなら、「六曜にこだわるお店」もしくは「店主の変なこだわり」と書いてもいいかもしれませんが、そうでなければあまり「こだわり」という言葉は使わない方がいいでしょう。