目上の人に「ご苦労さま」は失礼、というのは本当か?

前回、Amazon でいちばん高い電子書籍の話題を取り上げましたが、今回はいちばん安い、つまり 0円で読める電子書籍を1冊紹介したいと思います。

学研の辞典編集部が監修した日本語の豆知識本

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今回取り上げるのは、学研教育出版から発行されている『日本人ですが、ただいま日本語見習い中です![無料版] ~言葉を愛する辞典編集者たちの毎日~ 楽しく学べる学研コミックエッセイ [Kindle版]』です(タイトル長いです…)。

表紙に、

むりょうばんでんししょせき【無料版電子書籍】
料金がいらない、電子機器の画面で読む出版物。とってもお得。「─ が面白かったから有料版を読んでみよう」

と、辞典の体裁を真似た記述がありますが、その内容のとおりこちらは無料のお試し版となっています。有料版(158ページ)は紙の本が 1080円、電子書籍が 926円で別途販売されています。

内容は、ある出版社の辞典編集部でバイトすることになった女子大生が、個性あふれる日本語のプロたちにいじられながら日本語を学んでいく、というものです。(無料版の)ほとんどのページがマンガで構成されていて、とても読みやすいつくりになっています。

興味のある方は、無料ですから気軽に試し読みしてみてください。

「ご苦労さま」が失礼だという根拠が知りたい

さて、この無料版で辞典編集部の先輩が

「ご苦労さま」は一般的に目上の人が目下の人に使う言葉だ
目上の人に使う場合 正しくは「お疲れさまです」

と主人公の女の子に注意する場面が登場します。これは、ビジネスマナーを取り上げた書物や講座でよく指摘されるネタです。
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三省堂の『大辞林』には以下のようにあります。

「御苦労」をさらに丁寧にいう語。普通、目上の人には使わない方がよいとされ、「お疲れさま」を使うことが多い。

注目すべきは、「普通〜とされ、〜が多い」といった表現で、明確に誤用だとはしていない点です。

では、「ご苦労さま」が目上の人に対して失礼といわれるのはなぜなのか? このあたりの理由についてネットの意見を調べてみると、「もともとお殿様とかが家臣に向かって『ご苦労であった』と使う言葉だったから」「時代劇を見ればわかります(キリッ)」なんていう主張が多く見られます。

しかし、実際に「ご苦労さま」が登場する文献などを示してもらわないことにはちょっと納得できかねる主張です。時代劇がそうだと言われても……。

この点について、「「汚名挽回」は誤用ではないかも? ジェリドの汚名挽回なるか」の記事でも引用させていただいた『三省堂国語辞典』の編集委員である飯間氏は、昔の(歌舞伎や浄瑠璃などの)文献を調べても殿様が家来に「ご苦労」と言う場面はほとんどなく、むしろ目下から目上に使われる例が多く見られたと主張しています。

また、同氏はツイッターでも以下のように発言しています。

大河ドラマ「軍師官兵衛」(11/9)で、おねが秀吉に〈長い間ご苦労でございました〉と言っていた。今は「ご苦労」と言うと上から目線と取られるけれど、昔から目上の人に使うことばだった。このせりふは歴史的に正しい。今でも「お巡りさん、ご苦労さま」と言ってまったく問題ないです。

森谷司郎監督「海峡」(1982年東宝)で、青函トンネル開通後、吉永小百合さんが責任者の高倉健さん(役では命の恩人)に〈本当に、長い間ご苦労さまでございました〉と頭を下げる場面があります。きちんとした場面で目上に「ご苦労さま」を使って違和感のない例のひとつです。

飯間氏の主張を鵜呑みにするのは危険かもしれませんが、「ご苦労さま」が失礼であるという納得できる理由を提示できない限り、「それは失礼な言い方だ!」とドヤ顔で指摘するのは控えたほうがよさそうです。

まとめ:失礼だと思う人がいるなら使わい方がいい

「目上の人に『ご苦労さま』と言うのは失礼だ」なんてことはビジネスマナー講座のインチキ講師でも言えることですし、素人のブログでもたくさん書かれている内容です。

今回紹介した本についていえば、せっかく辞典編集部が監修についているのですから、どうしてそれが失礼にあたるのか、どういう経緯で失礼ととられるようになったのか、といったところまで掘り下げていただきたかったです。

では、私たちが「ご苦労さま」を目上の人に使うべきかどうかということですが、わざわざ相手を怒らせるようなあいさつをする必要はありません。無難に「お疲れさま」と言っておきましょう。

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