著作権法に違反しないコンテンツの引用方法

電子書籍について

電子書籍やブログの記事を作成する際、他人が書いた文章やイラスト、写真などを引用したいと思うこともあるでしょう。

このブログでも、Kindle ストアで購入した本やマンガの一部、ニュースサイトの記事をたくさん引用しています。例えば以下の記事もそのひとつです。

いまさら聞けない『ブラックジャックによろしく』騒動の裏側
アマゾンの Kindle や楽天の kobo をはじめとした電子書籍ストアで、『ブラックジャックによろしく』というマンガが無料配信されているのを見たことがあると思います。 ↑ アマゾンの Kindle ストアでの表示 ↑ 楽天の kobo ...

では、こういった行為は著作権の侵害にならないのでしょうか?

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要件を満たした「引用」は著作権法で認められている

Wikipedia によると、著作権とは「コピーライト(英語: copyright)とも呼ばれ、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、写真、コンピュータプログラムなどの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した著作物を排他的に支配する財産的な権利である」と紹介されています。

この著作権について定めた日本の法律が「著作権法」ですが、その第三十二条に「引用」という項目があります。

(引用)第三十二条
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

(著作権法)

ここでは、いくつかの要件を満たせば他人の著作物を「無断で」引用できるとしています。

ではその要件とは何でしょうか。ひとつずつ確認していきましょう。

公表された著作物であること

これはすでに世の中に公開されたコンテンツであるということ。例えば、企業の極秘資料の一部を転載してしまった場合は、それがどんな形式であっても、適正な引用とはなりません。

逆に、本として出版されていたり、ネットで公開されていたりするコンテンツは「公表されている」とみなされ、引用の対象となりえます。

同様にテレビのキャプチャ画像や部分的な映像も要件を満たせば「引用」になると解釈できるはずですが、実情はテレビ局が著作権侵害をアピールするケースも多いようです。私も怒られるのは嫌なので、以下の記事ではテレビの画面っぽい画像を自分で作成しました。

デキる人は「出来る」を「できる」と書く
テレビのバラエティ番組にはテロップ(字幕)がよく使われていますが、そこでときどき目にするのが上の写真のような「〜出来る(出来ません)」という表記。もちろん、日本語として間違っているというわけではありませんが、ここは「〜できる」と書くことをお...

引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること

条文の中の「公正な慣行に合致するもの」という点については、最高裁判決(写真パロディ事件第1次上告審 昭和55.3.28)などの判例によってその基準が明確になっています。そのひとつの要件が「主従関係の明確性」。

ここでいう主従関係というのは、自分自身のコンテンツと引用部分との関係であり、当然ながら自分のオリジナルコンテンツの方が「主」である必要があります。

例えば、「この電子書籍は私がいちばん好きな作品をみなさんに紹介するものです」という内容の前書きを1ページだけ書いて、そのあとに夏目漱石の『それから』を丸ごと転載した本を出版したとします。

これは明らかに引用(『それから』)が「主」で、自分自身のコンテンツ(前書き)が「従」ということになりますので、正当な引用とはなりません。この場合、単純な量(文字数)だけではなく質も問われるということに注意してください。

また、仮に自分自身のコンテンツの方が質・量ともに「主」だったとしても、他人の作品を丸ごと転載するのは引用とはいえません。引用は「部分的であること」という決まりがあります。

引用部分が明確になっていること

また、引用部分とそれ以外の部分が明確に分けられていないと、上記の「公正な慣行」に合致しないとみなされます。

具体的には、引用部分をカギカッコ「」や引用符で囲ったりして「これは引用ですよ」ということを明確にしなくてはいけません。

書籍では引用部分の前後に空白行を入れて、引用部分を2、3文字下げるのが慣例となっています。
15020802

ブログなどでは<blockquote>タグを使って、引用部分を囲ったり字下げさせたりします(実際の見え方はブログやサイトの設定によって変わります)。

最上川は、みちのくより出て、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所有。板敷山の北を流て、果は酒田の海に入。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。白糸の滝は青葉の隙ゝに落て、仙人堂、岸に臨て立。水みなぎつて舟あやうし。

五月雨をあつめて早し最上川

(松尾芭蕉『奥の細道』)

出所の明示がなされていること

上の例でいえば、(松尾芭蕉『奥の細道』)という表記がこれにあたります。特に難しいことはないと思います。忘れずに明記しましょう。

引用を行う必然性があること

これは、なぜそれを引用しなければならないのかという必然性です。明確な基準を示すことは難しいですが、内容と関係ないのに目立ちたいという理由だけで『進撃の巨人』の絵を引用してはダメということでしょう。

では上の『モナ・リザ』の絵の引用は必然性があるのかというと、著作権の保護期間は著作者の死後50〜70年というのが国際的な決まりなのでダ・ヴィンチの絵画の場合は問題ありません。また、著作権というテーマを扱うにあたって、だれでも知っている名画はとてもわかりやすい例であること、著作権という考え方が世界共通であることをイメージさせやすいという意味で必然性もありました。

さらに、絵画などの美術作品については次のような判例もあることを紹介したかったという意図もあります。

絵画を忠実に撮影した写真には著作権が認められない

絵画を集めた画集には著作権があります。絵画がレイアウトされたページをスキャンしてそのまま(ページ全体を)ブログなどに無断転載すれば、それは著作権の侵害になります(上記の引用の場合を除く)。

ところが、画集をスキャンして絵画の部分(写真)だけを転載した場合、著作権の侵害にあたらないこともあります。

例えば銅像の写真があったとします。まず、銅像にはそれを作った作者の著作権があります。これがロダンのような100年くらい昔の人であればその著作権は消失していますが、それとは別に写真を撮ったカメラマンの著作権というものもあります。カメラマンはその銅像を美しく撮るためにアングルや光の当て方などを自分なりに考えたわけですから、その写真にはカメラマンの著作物性があることになります。

ところが絵画などの平面的な作品の場合、「版画写真事件」という事件の裁判で「平面的な作品をできるだけ忠実に再現するために撮影した写真について著作物性を認めることはできない」という判例が示されています。

凹凸をわずかに有するものを含み、ほぼ平面的な原画を忠実に再現した写真については、忠実に再現する以上撮影位置は正面以外に選択の余地がないし、光線の照射方法等の技術的な配慮についても忠実な再現が目的であって、独自に何かを付け加えるというものではない

(Wikipedia「版画写真事件」)

ですから、上で使っているレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の写真は Wikipedia から引用しましたが、これを撮ったカメラマンに著作権はないということになります。

まとめ

著作権に対する意識というものはネットの世界ではルーズになりがちですが、ちゃんと考えていかなくてはならない問題です。特に電子書籍を出版する場合には、少なくともネットと同じ感覚ではいけません。

だからといって、著作権の侵害を避けるあまり、必要な引用も控えて自分の作品をつまらないものにしてしまうのも、もったいない話です。

著作権や作品の引用に対する正しい知識をもって、使えるコンテンツは上手に利用させてもらいましょう。

引用の要件

  • 公表された著作物であること
  • 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  • 引用部分が明確になっていること
  • 出所の明示がなされていること
  • 引用を行う必然性があること
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