Q. 「寧ろ」という漢字の読み方・由来・語源は?

「寧ろ」という語を辞書で調べると「二つの物事をくらべ合わせ、あれよりもこの方を選ぶという意を表す。どちらかといえば。いっそ(『大辞林』三省堂)」とあります。使い方は「愛というものは愛されることよりも、寧ろ愛することに存する」といった感じです。いいこと言ってますが残念ながら私の言葉ではありません。こちらはアリストテレスの言葉です。

読み方は「むしろ」。その語源は?

「寧ろ」は「むしろ」と読みます。意味は冒頭に紹介したとおりで特に難しいことはなく、またよく耳にする言葉だと思います。ただし漢字にすると難しい。

この「寧」という字ですが、一字だと「ねい」と読みます。最も有名な使い方は、心がこもっているさまを表す「丁寧(ていねい)」でしょう。

ねい【寧】
① 落ち着いている。やすらか。「寧歳・寧日・寧静・寧謐・安寧」
② 心をこめる。「丁寧」

(『大辞林』三省堂)

辞書には以上のようにありますが、出てくる漢字がみんな難しいですね。それぞれ、寧歳(ねいさい)・寧日(ねいじつ)・寧静(ねいせい)・寧謐(ねいひつ)・安寧(あんねい)と読みます。

ところが辞書をみる限りでは、「寧」という字に「むしろ」という意味につながる記述が見当たりません。そこで別の漢和辞典で調べたところ、漢文での用法として「それよりも」といった使い方の例が見つかりました。

漢文での使われ方

「…此亀者、其死為留骨而貴乎、其生而曳尾於塗中乎。」
二大夫曰、
生而曳尾塗中。」
荘子曰、
「往矣。吾将曳尾於塗中。」

こちらは『荘子』からの一節で、これを読み下しますと以下のようになります。

「…この亀なるは、むしろそれ死して骨を留めて貴ばるるをなさんか、むしろそれ生きて尾を塗中にひかんか。」と。
二大夫曰はく、
むしろ生きて尾を塗中にひかん。」と。
荘子曰はく、
「往け。吾まさに尾を塗中にひかんとす。」と。

意味は以下のようになります。

「…この亀としては、死んで甲羅を残して貴ばれるのを願ったであろうか、それよりも生きて泥の中で尾を引きずって動き回ることを願ったであろうか。」
二大夫は言った。
「それは、やはり生きて泥の中で尾を引きずって動き回ることを願ったことでしょう。」
荘子は言った。
「帰るがいい。わしも泥の中で尾を引きずって動き回ることにしよう。」

日本語と中国語では使い方が少し異なるのでわかりづらいかもしれませんが、このように「寧ろ」という言葉は漢文の訓読が由来になっている語というわけです。

使用例

人を殺したり、人を傷けたり、又は人を陥れたりしても自己の優勢な事は證明出来る訳であるが、これ等は寧ろ殺したり、傷けたり、陥れたりするのが目的のときによるべき手段で、自己の優勢なる事はこの手段を遂行した後に必然の結果として起る現象に過ぎん(『吾輩は猫である』夏目漱石・著/新潮社)

ニットの魔術師と呼ばれているイタリアのデザイナーの手によるブリーフだった。ビキニと呼んだ方が寧ろ、お似合いな位にハイレグな下着だった(『Thirsty』田中康夫・著/河出書房新社)

もちろん中には意図的な着服もあるかもしれないが、それよりはむしろイタリアの郵便制度という機構の中に致命的に自堕落なブラックホールのようなものがあって(『遠い太鼓』村上春樹・著/講談社)

『記者ハンドブック』での扱い

共同通信社が発行している『記者ハンドブック』では、「寧ろ」はひらがな書きにするよう勧めています。

書体ごとの表記

明朝体


教科書


行書体

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