Q. 「山葵」という漢字の読み方・由来・語源は?

「山葵」という語を辞書で調べると「アブラナ科の多年草。日本特産。山間の渓流の水辺に生え、栽培もされる。根茎は太く表面に多数の葉痕があり、辛味が強く香気があって香辛料として用いる(『大辞林』三省堂)」とあります。静岡で行われてきたこの植物の栽培方法が世界農業遺産にもなりました。

読み方は「わさび」。その語源は?

「山葵」は「わさび」と読みます。その読み方の由来には諸説あるようですが、1930年代に発行された辞書『大言海』には「悪障疼(わるさはひびく)」という言葉が略されて「わさび」になったと紹介されています。この場合の「障」は「気に障(さわ)る」「耳に障(さわ)る」といったように感覚器官にふれて嫌なものとして受け取られるさまを表します。また「疼」はヒリヒリするという意味の「疼(ひひ)く」からきており、「悪」という字と合わせてワサビ特有のツンとくる強烈な辛さを表しています。

ただ、「悪障疼」を由来とする説には異論も多く、それ以外にも「悪舌響(わるしたひびき)」、「走る(わしる)実(び)」などいろいろな語を由来とする説があり、真相は不明です。

奈良県明日香村から出土した7世紀後半のものとされる木簡にはすでに「委佐俾三升(わさびさんしょう)」と記されており、これが現状、ワサビについて書かれた最古の資料となるようです。その後、平安時代中期に編纂された『延喜式』に「山薑」という表記が見られたり、薬草の辞典『本草和名』には「和佐比」という漢字で登場していたりします。

現在よく見られる「山葵」という表記も平安時代ごろから使われ始めましたが、これは「葉の形が葵に似ている山の植物」というのが由来となっています。葵といえば水戸黄門の印籠でおなじみの「葵の御紋」。徳川家の家紋にも使われていますが、そのせいもあって、家康公のお声掛かりでワサビ栽培発症の地である駿河の農法が門外不出の御法度品になったと伝えられています。

現在は寿司や刺し身といった日本食が世界的に普及したこともあり、英語やフランス語をはじめ、台湾語、広東語、韓国語などでもそのまま「wasabi」という発音が使われています。

「葵」を使ったその他の植物名

葵菫(あおいすみれ) スミレ科の多年草。ヒナブキ。
黄蜀葵(おうしょっき) トロロアオイの漢名。
加茂葵(かもあおい) フタバアオイ(↓二葉葵)の別名。
唐葵(からあおい) タチアオイ(↓立葵)の古名。
寒葵(かんあおい) ウマノスズクサ科の常緑多年草。
紅蜀葵(こうしょっき) モミジアオイ(↓紅葉葵)の別名。
白根葵(しらねあおい) キンポウゲ科の多年草。
西洋山葵(せいようわさび) ワサビダイコンの別名。
銭葵(ぜにあおい) アオイ科の越年草。小葵。錦葵。
立葵(たちあおい) アオイ科の越年草。梅雨葵。
天竺葵(てんじくあおい) ゼラニウムの別名。
向日葵(ひまわり) キク科の大型一年草。
蒲葵(びろう) ヤシ科の常緑高木。檳榔。
二葉葵(ふたばあおい) ウマノスズクサ科の多年草。
冬葵(ふゆあおい) アオイ科の多年草。
布袋葵(ほていあおい) ミズアオイ科の多年草水草。
水葵(みずあおい) ミズアオイ科の一年草。
紅葉葵(もみじあおい) アオイ科の多年草。
百合山葵(ゆりわさび) アブラナ科の柔らかい多年草。

(『大辞林』三省堂)



使用例

それにお刺身なんかをのっける海髪という緑色の海草、あれを山葵醬油でやっつけるのもよし、秋になればゲソすなわち烏賊の足なんか、炙ってもらうのもこれはうまい(『女たちよ!』伊丹十三・著/新潮社)

料理の磯辺巻はおろし山葵を材料で挟み、それを海苔で巻きます。これは別名「かくし山葵」ともいい、鳥料理屋では湯振りにした笹身と三つ葉を材料として使い(『料理名由来考』志の島忠、浪川寛治・著/三一書房)

薬味をツユの中へ入れて無茶苦茶に掻き廻わす。「君そんなに山葵を入れると辛らいぜ」と主人は心配そうに注意した(『吾輩は猫である』夏目漱石・著)

女房が出刃で(これは日本から持参した)鮭をしわける。すごくいいトロが出たので、わさび醬油につけて台所に立ったまま食べる(『遠い太鼓』村上春樹・著/講談社)

コバシラの握りはワサビがツーンと効いて、シャキシャキッとした歯ざわりがセクシーだ(『江戸前寿司一の一の店を行く』嵐山光三郎・著/新潮社)

『記者ハンドブック』での扱い

共同通信社が発行している『記者ハンドブック』では、植物の種類として表記する場合はカタカナの「ワサビ」、食品の種類として表記する場合はひらがなの「わさび」とすることを勧めています。

「ワサビ」に限らず、動植物の名をそのままの意味で記す場合は一般的にカタカナが用いられます。それに対して動植物を比喩的に使う場合や慣用句の場合は漢字やひらがなを使います(例/雨後のたけのこ、すずめの涙、ひのき舞台、など)。また、加工品や調理した物の名称に含まれる動植物名も漢字やひらがなを使います(例/かつお節、ひのき風呂、わさび漬け、など)。

書体ごとの表記

明朝体


教科書体


行書体

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