『〜アルペジオ』と『記者ハンドブック』における文字遣いの違い

文章の書き方

デキる人は「出来る」を「できる」と書く」の記事で、「〜できる」は平仮名で書くのが望ましいとしながらも、最終的にはそれぞれの出版社や媒体の方針によるものだと書きました。

例えば、私が愛読している『蒼き鋼のアルペジオ』(ヤングキングコミックス/少年画報社)も、「〜できる」を「〜出来る」と漢字で書く媒体のひとつです。

実は「できる/出来る」のほかにも、このマンガには他とはちょっと違った文字遣いが見られます。そこで今回は共同通信社の『記者ハンドブック』と『蒼き鋼のアルペジオ』における文字遣いのルールの違いについて紹介します。

注意していただきたいのは、「どちらが正しい、正しくない」という話ではなく、「自分たちのルールに沿って、こういう書き方をしている媒体もあるよ」ということです。

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『蒼き鋼のアルペジオ』のセリフを『記者ハンドブック』のルールと比較

今回、比較の参考としたのは『蒼き鋼のアルペジオ 10巻』(少年画報社)と『記者ハンドブック 第9版』(共同通信社)です。

画像が『蒼き鋼のアルペジオ』で、囲みが『記者ハンドブック』です。

あり・ある

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〔無の対語〕有り余る、有り合わせ、有り金、有り高、有る時払い、事有るとき

〔存在、所在〕在りし日、アジアの東に在る国

〔注〕「有る」「在る」は、できるだけ平仮名書きを活用。

『記者ハンドブック』では「ある」という語について、存在や所在を意味するときは「在る」、単に有無を表す場合は「有る」としています。これに照らしてみると、『蒼き鋼のアルペジオ』の「必要が在れば」という言い回しは、『記者ハンドブック』では「必要が有れば」となります。例の中の「事有るとき」と同じ使い方です。さらに、〔注〕にならえば「必要があれば」と平仮名になります。

・・いく

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行く 行く先、学校へ行く

いく (物事が)うまくいく、合点がいく、実施していく、減っていく、満足がいく〔注〕補助動詞、主に「て」が加わった場合などに。

『記者ハンドブック』では、違う場所へ移動する「go」の意味が強い場合は「行く」とし、補助動詞として用いられるときは「いく」としています。『蒼き鋼のアルペジオ』で「持って行き」と言っている対象は「人間と霧のパワーバランス」という抽象的なものであり、ハンドブックの例の「実施していく」に近い使い方となります。

これが、「(振動弾頭魚雷を)持って(アメリカまで)行く」という使い方だったら、『記者ハンドブック』のルールでも「行く」と漢字になるのかもしれません。

いただく

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頂く〔もらう、のせる〕頂き物、これなら頂きだ、賞状を頂く、雪を頂く
〔注〕飲食の「いただきます」は平仮名書き。

・・いただく〔補助動詞の場合〕(来て)いただく、お読みいただく、出席していただく

「・・いただく」はビジネスメールをはじめとした、お客相手の文書でよく登場する言葉です。一般的には『記者ハンドブック』の使い方を支持する方が多いでしょうか。それにならえば、「おいで頂く」は「おいでいただく」になります(この場合、「おいでいただきました」ではなく「おいでくださいました」の方が適当だと思いますが)。

ください

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(を)下さい・(を)下さる お手紙を下さい、しばらくの猶予を下さい

・・ください(して)ください〔補助動詞の場合〕ご検討ください、ご注意ください、ご了承ください

こちらもビジネスシーンでよく使われる言い回しです。「give me」の意味のときは漢字、「please 〜」の意味の場合は平仮名にするというのが『記者ハンドブック』のルールです。

くる

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来る 朝が来る、客が来る、台風が来る、手紙が来る、電車が来る、友だちがやって来る

・・くる 頭にくる、行ってくる、かちんとくる、してくる、なってくる、ぴんとくる〔注〕補助動詞、主に「て」が加わったときや、「来る」の意味が薄れた場合に。

これは前述の「いく/行く」と似ています。『記者ハンドブック』では「come」の意味が強い場合は漢字で、補助動詞として使われる場合は平仮名としています。「見えて来る(来ない)」の「来る(来ない)」は、「見える」に付属する補助動詞として「動作が進行し、事態が推移する意」を表しています。

こと

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〔主として具体的な事柄を表す場合、実質名詞〕遊び事、荒事、争い事、あらぬ事、考え事、(A氏から)聞いた事だ、芸事、研究している事、事新しい、事有るとき、事書く、事が面倒、事柄、事細かに、事足りる、事と次第によっては、事なかれ主義、事に当たる、事の起こり、事のついでに、事ほどさように、事もあろうに、事もなげに、事を起こす、事を好む、作り事、出来事、悩み事、習い事、願い事、見事、物事、約束事

こと〔主として抽象的な内容を表す場合、形式名詞〕あの人のことは聞いたことがない、あんなことになって、うまいことを言う、勝手なことをするな、ことによると、このことは、準備しておくこと、…することにしている、そんなこととは知らずに、人のことみたいに、見たこともない、見ることができる、読むこと

『記者ハンドブック』では、具体的な事柄を表す場合は漢字で「事」とするとしています。画像の例でいえば、「を構える事に」の最初の「事」がこれに当たります。この「事」は「大変な事態」を意味する実質名詞です。

これに対して「事を構えるに」の二番目の「事」は、『記者ハンドブック』の例の中にある「あんなことになって」と同じ使われ方の形式名詞です。

ですから、『記者ハンドブック』のルールに従ってこのマンガのセリフを書き換えるとすれば、「を構えることになったら」となります。

ない

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〔存の対語〕亡きがら、亡き人をしのぶ、◯◯さんが亡くなった

〔有の対語〕有ること無いこと、金が無くなる、無い物ねだり、無くて七癖 〔注〕「無い」は平仮名書きを活用。

ない〔助動詞、補助用言の場合〕行きたくない、…かもしれない、…しない、…でない

「聖人では無い」の「無い」は、存在しないという意味ではなく、打ち消しの意味なので、『記者ハンドブック』では「聖人ではない」と書きます。

また、「ときには「ひらがな」を使う」の記事でも書きましたが、口に出してしゃべるという意味が薄い場合「言う」は「いう」と書くことが多く、『記者ハンドブック』でもその方針をとっています。

さらに、前述の「こと/事」のルールを踏まえた場合、『蒼き鋼のアルペジオ』の駒城艦長のセリフである「聖人では無いと言う事ですね」は「聖人ではないいう ことですね」となります。

まとめ:それでも『蒼き鋼のアルペジオ』はおもしろい

いろいろ書いてきましたが、これらは決して『蒼き鋼のアルペジオ』を批判するものではありません。とてもおもしろいマンガですので、みなさんもぜひ読んでみてください。

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