Kindleでフィックス型のEPUBを扱う際の注意点

電子書籍について

現在、電子書籍の標準フォーマットとなっているEPUBには、「リフロー型」と「フィックス(固定)型」というふたつのレイアウト形式があります。それぞれに特徴やメリット、デメリットがあり、著者は状況に応じて原則、自由にそれらのフォーマットを選択することができます。

ところが海外のアマゾンでフィックス型ブックを販売したところ、配信手数料が販売手数料を上回るという事態が発生してしまいましたので、ちょっとご報告します。

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リフロー型

リフロー型とは、reflow(=再流し込み)という単語が示すとおり、読者それぞれの端末設定に合わせて文字の流し方を変える方式です。言葉で説明するよりも以下の画像を見ていただければわかりやすいと思います。

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上の画像は「EPUB作成「でんでんコンバーター」を使ってみた」の記事で作成したEPUBファイルを iPad で表示したときのイメージです。そして下の画像は同じEPUBファイルを画面の小さい iPhone で表示したものです。

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同じ原稿でも、画面の大きさによって1行の文字数や、1ページに表示される文字数が違っていることがわかると思います。

また、電子書籍は「文字の大きさを自由に変えられる」というのが特徴のひとつでもあります。以下の画像は同じ iPhone で文字の大きさを変えた際の比較です。この場合も表示される文字の量が変わっています。

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このように読者それぞれの端末の種類や設定の違いに応じて、文字の流れ方が変わるのがリフロー型です。また、設定によって全体のページ数も変わってくるので、参照を示す場合も「30ページの6行目」といった書き方はできません(「30ページの6行目」がいつも同じとは限らないため)。

フィックス(固定)型

これに対して1ページに表示する内容を固定する方式がフィックス型です。Kindle では「固定レイアウト形式」と呼んでいます。こちらも画像を見ていただいた方がわかりやすいと思います。フィックス型の同じページを iPad と iPhone で表示してみました。(出典:『マンがたり SHIZUOKA 第二巻』)

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左の大きな画像が iPad で、真ん中の小さい写真が iPhone です。見たとおり、まったく同じ内容のものが大きさを変えて表示されています。文字の一部が次のページにあふれてしまうこともありません。わかりやすく言ってしまえば、ページ全体を1枚の画像にして表示しているということです。画像ですからレイアウトが崩れることなく、「固定=フィックス」されているわけです。

フィックス型はその特性から、レイアウトを崩したくないマンガや雑誌、画集といったコンテンツに向いている形式といえます。ただ、スマートフォンなど画面が小さい端末の場合には文字が小さくなってしまう恐れがあります。そういった場合は、上の写真の右端のように、画面上で2本の指を開くピンチアウトという操作で画像を拡大表示させるなどして対応します。

Kindle でフィックス型書籍を出す際の注意点

上のフィックス型の例のような、タイトルや画像、キャプション、本文、囲みなどを複雑に配置させたページをリフロー型で再現することはほぼ不可能です。すでにこういった印刷データを持っている人や、デザイン的な意味でレイアウトにこだわりたい人は、リフロー型よりもフィックス型を好むかもしれません。

しかし、アマゾンの個人出版プログラムであるKDPでフィックス型の本を出版する際には、いくつかの注意点があります。

文字主体のコンテンツでフィックス型はNG

KDPでは、文字主体のコンテンツの場合はリフロー型でないと審査に通りません。フィックス型(固定レイアウト形式)は、マンガ、絵本、写真集、画集などの限定された本にのみ使用が可能となっています。

これは、リフロー型でなければ読者がフォントサイズや行間隔、背景色を変更できず、快適な読書環境が得られない、という理由からです。

したがって上の「羽衣伝説」のような本はフィックス型で出すことはできません。では絵本ならOKかというと、文字が読みづらいと判断されたら絵本でもNGになることがあります。以前、画集のEPUB化を行った際にも、絵画を解説する短い文を画像にしたら拒否されてしまいました。

ところが、Kindle ストアで販売されている大手出版社のビジネス書や技術書の中には、紙版の本の全ページをそのまま画像にしてフィックス型として出されているものも(数多く)あります。

このように、アマゾン側の判断でフィックス型がOKになる場合もあるようですが、個人の場合はまず無理だと思います。少なくともこの点に関する審査はかなり厳しいという印象を受けました。

海外販売での配信コストが高くなる

フィックス型はページごとに画像を用意するため、リフロー型に比べてファイル容量が大きくなりがちです。例えば、沢木耕太郎の『深夜特急』シリーズは240ページ程度のリフロー型で容量は約450KB。これに対してフィックス型のマンガ『ONE PIECE』は、205ページで約55MB(56000KB)にもなります。

私の所属している団体でも以前、マンガ作品を作成したのですが、やはり59.43MBという大容量になってしまいました。

ここでひとつ問題が発生します。「楽天koboライティングライフ(β版)に登録してみた」の記事で簡単に触れたのですが、KDP のロイヤリティが70%になるセレクトプランを選択した場合、ファイル容量1MBにつき1円の配信コスト(手数料)が差し引かれてしまいます。

楽天koboライティングライフ(β版)に登録してみた
楽天が運営する電子書籍の個人出版サービス「楽天koboライティングライフ」が先週からスタートしました。現在はまだβ版ということらしいのですが、さっそく登録だけしてみました。 アカウントの作成自体は簡単 登録にまず必要なのが「楽天の会員ID(...

ただ、マンガなどフィックス型のコンテンツで10MBを超えるものについては、配信コストは引かれないことになっています。ですから通常であれば特に気にすることはありません。

ところが、この「10MBを超えるものについては〜」という特例は日本国内での販売にのみ適用されるもので、アメリカをはじめとした海外で販売しようとすると、しっかり配信コストをとられてしまいます。ちなみにアメリカの場合、容量1MBにつき0.15ドルの配信コストがかかります。

上記の私たちのマンガは海外でも販売したのですが、アメリカでは販売価格2.99ドルに対して配信コストが8.61ドル、イギリスでは販売価格1.78ポンドに対して配信コストが5.74ポンドといったように、世界各国軒並み、配信コストが販売価格を上回る状況になってしまいました。これでは何冊、何万冊売ったところで1セントにもならないということです。

結局、配信コストがかかるセレクトプランはあきらめて、ロイヤリティ35%の通常プランに変更したのですが、海外向けにフィックス型の本を出したいと考えている人は気をつけてください。

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