「暇」は「もてあそぶ」のではなく「もてあます」もの

文章の書き方

「暇を持て余す」という言葉があります。例えば予定していた打ち合わせが急きょキャンセルになってしまい、次の約束まで時間が空いてしまったようなとき。別の用事を入れるには時間が足りないし、かといって何もしないでいるには待っている時間が長すぎる・・・

そういった状況を指して「暇を持て余す」と表現することがあります。ところがこれを「暇をもてあそぶ」と言ってしまう誤用がときどき見られます。よく似た言葉ではありますが、意味はまったく違います。今回はその違いについて簡単に解説したいと思います。

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「持て余す」は困った状態、「もてあそぶ」は楽しんでいる状態

まず「持て余す」という言葉を辞書で調べると以下のように書かれています。

もて あま・す【持て余す】
取り扱いに困る。手におえないで困る。「泣く子を持て余す」「暇を持て余す」「体を持て余す

(『大辞林』三省堂)

つまり「暇を持て余す」というのは暇の取り扱いに困る、暇をつぶすという行為が手におえないで困るということになります。いずれにしても困った状態を指していることがわかると思います。

いっぽう「もてあそぶ」はどうでしょうか。

もて あそ・ぶ【弄ぶ・玩ぶ・翫ぶ】
〔「持て遊ぶ」の意〕
① 手で持って遊ぶ。いじくる。「髪をもてあそぶ」
② 人をなぐさみものにする。「女をもてあそぶ」
③ 思うままにあやつる。弄(ろう)する。「政治をもてあそぶ」「他人の運命をもてあそぶ
④ 心のなぐさみととして愛する。観賞して楽しむ。「詩文をもてあそぶ」
⑤ 人をなぐさみの対象とする。寵愛する。「楊貴妃夜る昼るもてあそび給ける程に/今昔物語集」

(『大辞林』三省堂)

イメージとしては手の上で転がして楽しんでいるといった表現が近いでしょう。特に③の「思うままにあやつる」という意味が今回の場合は適当かと思いますが、そうなると「暇をもてあそぶ」というのは暇を思うままにあやつるということになるので全然困っていない、むしろ楽しんでいるという意味になってしまいます。

もちろん、あえて「暇を楽しんでいる」という状況を表現しようというのであれば「暇をもてあそぶ」と言っても構いませんが、余計な誤解を生む恐れがありますので、あまりお勧めはしません。

「持て余す」は漢字、「もてあそぶ」は仮名で書く方がいい

共同通信社が発行している『記者ハンドブック』では「もてあます」は漢字を使って「持て余す」、「もてあそぶ」は仮名のまま「もてあそぶ」と書くことを勧めています。これは「もてあそぶ」という言葉に当てる「弄」も「玩」も常用漢字表に含まれないためです。

「持て余す」と「もてあそぶ」の使用例

「持て余す」
星海艦隊の制服を着た女性宙士がひとり漂い着いて、ふわりと腰かけると、思いつくままに弾き始めた。どうやら非番で暇を持て余したらしい。なにかのセレモニー用に練習しているのだろう、サー・ウィリアム・ウォルトン作曲の(『吹け、南の風』秋山 完・著)

ゲストハウスの前のテーブルでメーコーンの封が切られ、「ひとり三十バーツの投資だぞ」という声に暇を持て余す何人かが集まった。つまみはえびせんやポテトチップスだった(『オカマのプーさん』下川裕治・著)

「もてあそぶ」
そうした口調のためか、己れの奇才をほしいままにもてあそぶイソポと少々融通のきかぬシャントとのやりとりが、太郎冠者とその主人との問答のごとくに見えてくるところも妙である(『イソップ寓話』小堀桂一郎・著)

これは書道を楽しむほど純なものではなく、子供を愛するというよりは、子供を暇潰しのおもちゃとしてもてあそぶに過ぎない、と言った方が適当であることは、前にも申した通りです(『大菩薩峠』中里介山・著)

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