Kindle ストアで『うろん語の群れ』という電子書籍を購入しました。「うろん」とは胡乱と書き、「正体が怪しいこと」をいうそうです。
内容は、日常で目や耳にするなんとなく変な言い回しを取り上げるというもので、このブログのテーマと似ています。タイトルも表紙の絵柄もセンスありますね。Kindle のレビューでも「テンポがよいので、楽に読み進めました」とあるので、楽しく読めるものと思い購入したわけです。
うろん語の群れ
出版社・著者:安藤智子
Kindle 価格:103円
うろん語の基準はとても厳しい
おかしな日本語を取り上げた本はたくさんありますが、この『うろん語の群れ』はかなり厳しい内容となっています。例えば「とんでもございません」や「めっそうもございません」「申し訳ございません」も、この本では「うろん語」として切り捨てられています。
正しくは「とんでもないことです」「めっそうもないことです」「申し訳がありません」とするべきだそうです。
このブログの場合は、あまり厳しいことを書いてブーメランとして自分に返ってくるのが嫌なので、「そういう言い回しを使う気持ちも理解できますが、一般的には受け入れられないことも多いので、なるべく使わない方がいいと思いますがいかがでしょうか」という低姿勢で運営しております。
ところが、この本は容赦ありません。
「イタリア料理なら、あの店がオススメです。私のお気に入りなんです」
というように、自分の気に入っているものを「お気に入り」と言う人がいる。「お」をつけて丁寧に表現しているつもりだろうが、それは自分の顔を「お顔」と言うに等しくないか?
「お気に入り」なんてものは、「頑張った自分への『ご褒美』」と同じようにカッコ付きで書いてもいいような定型句なのに、それも許されません。
うろん語の指摘はその口調も厳しい
例えば、以下のような感じ。
そんなことも知らずに、よくセールスなんかやっていられるな、と妙に感心してしまった。
丁寧語・尊敬語・謙譲語をちゃんと遣い分けられるようになろうよ、ね?
こいつ、「私のご認識ですが」だって! ばーか、こんなの相手にしてらんないよ。
これほど語感の悪い言葉を苦もなく口にしているあんたがこわい。
「ご注文は何になさいますか」と言ってよね、こっちは客なんだから。
こういう場合は、「と、おっしゃいますと?」と言うのが礼儀ってもんじゃない?
ある人はこれを「ぎょちゅう」と読んで平然としていた。ちなみに、その人は大学出。
「ほんと、ふいんきサイコー」なんて、うろんな囁きを交わしているのだろうか。気色悪い。
それは「つきぎめ」と読むの。なんだか急に別れたくなった。
なかなか辛辣ですね。読んでいて心が苦しくなってきました。表紙を見て楽しく読めそうと思い購入したのですが、これではただの口うるさいオバサンです(あ、言ってしまった)。
もっとも、この点については著者自身も認識しているようで、「あとがき」で以下のように書いています。
怒るよりも笑え。
ということを念頭において本書を書き出したのだが、やはり自分のことは棚に上げて文句タラタラになってしまった。ちょっと反省している。
まったく他人の誤りを指摘する文章というのは難しいですね。私も気をつけたいと思います。
本の内容とは別の残念なところ
さて、本の感想ばかり書いていてもみなさんの役に立ちませんから、不本意ではありますが、この本の残念なところを挙げて、電子書籍出版の参考にしていただこうと思います。
目次にリンクが施されていない
多くの電子書籍では目次ページにリンクが設定されていて、各見出しをタッチすると該当のページへ飛ぶことができます。しかしながら、この本ではそれができません。残念です。
傍線が文字の左に引かれている
縦書きの日本語原稿の場合はふつう傍線は文字の右側に引かれます。ですがなぜかこの本では文字の左側に引かれていて少し読みづらく感じます。
数字が転んでいる
縦書きにおいて二桁の半角数字を正しく配置することを「縦中横」といいますが、この本ではすべての半角英数字が横向きに転んだままになっています。
引用部分の指定が分かりづらい
前回、本における引用は前後に空白行を入れて、引用部分を2、3文字下げるのが慣例と紹介しましたが、この本では<>で囲ってあるだけなので、ちょっと分かりづらいと感じました。
・ ・ ・
いかがでしょうか。他人の誤りを指摘して嫌なやつだと思われるかもしれませんが、これらは紙の本なら返品を要求したくなるような品質レベルです。
このブログのタイトルにある「商品として売れる」というのは、まさにこういうことを言っているわけで、どんなに正しい日本語で原稿を書いていたとしても、本の作りがいい加減だと「この人の言ってること信用していいのかな?」と思われてしまいます。
それではもったいないと私は思うのです。